アマゾン奥地のシャーマンのもとで修行してみた②~修行の準備~

旅/紀行

前回の話はこちら。

翌朝目が覚めると、6時半にアラームをセットしていたiPhoneは6時29分を示していた。

健康的な朝だ。だが、耳元にまとわりつく蚊の羽音が気分を少し萎えさせる。

朝食には目玉焼きを4つほど平らげた。植物由来の質素な食事を摂るんじゃないのか?と思ったが、それは明日からでいいという。

先述の通り、アヤワスカを摂る者はDieta(食事制限)をしなければならない。

その間に食べていいものは、Bochico(魚)、Platano(バナナのようなもの)、Fariña(水に溶かすとShibeという名前になる)の三品目のみ。

f:id:neoism:20190313120733j:plain

どれも味はかなり薄く質素で、美味しくはない。Bochicoは骨が多くて食べにくい。

Shibeは身体のhidratación(水化)を促すという。だいたい朝と昼に一食ずつ。

ベジタリアンであるベルギー人のBelenはBochicoを食べるのを拒否しており、シャーマンによく思われていないらしいとあとになって知る。

朝食時に、LuisやBelenと話をした。

大事なのは受け容れること、欲を持たずに耐えて待つことだとLuisは説いた。そうすればいずれやってくると。

アヤワスカ摂取にしても、何かを見てやろうというスタンスで臨むのではなく、ただ待つ、受け容れるというスタンスでいくのがいいらしい。

ここでの体験全てを、自分を失わずに、しかし素直な気持ちで受け容れようと思った。

好きな言葉はなに?と尋ねると、Luisは”compartir”(シェアすること)と答えた。友情・健康・精神性・幸福こそ至高であると語っていた。

金銭の優先順位は低く、酔っ払って女遊びをするような巷のシャーマンとは違ってこうやって自然の中で暮らしていると誇らしげに語っていた。(彼は今はシャーマンではないが)

私も好きな言葉を聞かれたのでEverything is permitted(許されぬものなどない)と答えた。Belenはmeditación(瞑想)とか言っていたような。

Luisは次第に何やらオカルティックなことを言い始めた。フリーメイソンやCIAがどうだの、UFOがどうだの、どこかで聞いたことのあるようなことを。BelenもLuisの言うことに大体同意している。火曜日に、近くにUFOが来るからコンタクトを取るらしい。

そんなよくあるオカルティックな話をすんなり信じられるはずがない。

根拠を尋ねたところ、ドラッグを通したビジョンやエジプトのピラミッドやらの話をしていたが、UFOと交信しているとかいうLuisはまだしも、そうでないBelenはなぜそれを信じられるのだろうか。

スピリチュアルな世界とサイエンティフィックな世界は、最終的に相容れることができない。

現状、科学を以てしても認知できない・証明できない事象ばかりだからだ。だから、結局は並行線で、そういう考えもあるね、で終わるしかない。

全く納得できなかったし、もっと攻め込みたい気持ちもあったものの、話を終わりにした。2週間3週間と彼らとともに過ごしたら、洗脳されるんじゃないかと思ったりもした。

でも、人格がぶっ壊れるようなことがない限りは、自分自身を保つことができるだろうし、アヤワスカなどの経験を介して得られた経験が思考などに何かしら大きな変化をもたらしたとしても、それは既に自分なのだから受け容れることになるだろう。

いくら話を聞いたところで「自分が見たものしか信じることはできない」と思ったが、そもそも今信じている様々な事象の多くは、自分が直接知り得たものではない。例えば宇宙が137-8億年前に誕生しただの、地球が温暖化しているだの、当たり前のように信じているわけだが、別に自分が見て確認したわけではない。

結局は自分にとって不都合でない、納得しやすい情報であるかどうかというフィルターがかかっているわけだ。

f:id:neoism:20190313121038j:plain

Belenは私とは逆で2週間のダイエットの後にアヤワスカを摂取するとのことだったので、そっちの方がいいんじゃないかと思ったが、Luis曰く先にアヤワスカを摂取するのがスタンダードらしい。

期待を膨らませてアヤワスカを3週間目の楽しみにとっておくのもアリじゃないかと思っていた。

しかし、オカルティックな話を聞いたあたりから、このままじゃ彼らへの不信感でいっぱいになってしまうんじゃないか、そんな状態で彼らと2週間も接しつづけるよりも、先に体験した方が精神衛生上楽だと判断し、そのままこの日にセレモニーを受けようと心の中で決めた。

昼になり、Luisとお手伝いの3-4人の少年たちとともに、車でイキトスへと向かった。

私の目的は、セレモニーに必要なもの(煙草など)を買うことだ。

窓から手を出して、ぬるい空気を揉みしだいた。

いつの間にか眠りに落ちていた私は、到着直前に目を覚ました。

寝起きの不機嫌さもあって、Luisへの不信感、このオヤジに騙されているんじゃないだろうかという疑念が、相応の態度となって表れた。

要は、気怠くて無愛想な態度だ。

なんせある程度お金も払っている。バスタオルが15ソル?日本の方が安いんじゃないか、などとイライラしながらも、煙草やら謎の液体やらセレモニーに必要なものに加えてサンダルやノートなどを、市場を巡りながら購入していく。70ソルは使っただろう。(当時1ソル=34円くらい)

彼はよくジュースなどを奢ってくれたが、そんなんで機嫌とろうとしてんじゃねぇぞと思いながらも、もちろん全部もらった。

信じるという行為は、ある種の麻酔なのかもしれない。

Luisからは、イキトスにある14のアヤワスカセンターはビジネスに特化した金の亡者で、かつホンモノは提供していない偽物であるとか、値段の説明だとか、オカルティックな話とか、色々聞いたわけだが、自分の価値観からは受け容れられないものもあるし、現時点では確かめるのが難しいものも多かった。

私の発する懐疑的な質問に上手く返す器用さも相まって、信用に足る人物であるかどうかの見極めに精神力が多く注がれていた。

もしここで素直な気持ちで彼の言うことを信じることができたならば、心は楽になるだろう。しかし、私にそんな芸当はできない。オウム真理教に走った若者のようなピュアさは私にはない。

仮に彼と今後ともに生きていくしかないなどという状況になったならば、自分の心から発される疑いの気持ちを押し殺すことで、自らを暗示・洗脳し、心を楽にしようとすることになるのかもしれない。

f:id:neoism:20190313121204j:plain

用を済ませてイキトスを出て、モトタクシーに乗って強い風にぶつかりつつ、あるときは快晴の中を、あるときは雨の中を移動しながら、未来のことをあれこれ考えた。

凍えるような風のときは瞼の裏で北極をソリで走る自分をイメージした。寒さから暑さを感じられるか、自己暗示をかけようとしてみたけれど、無理だった。

戻ってくると、開放的な暖かい光が木々を揺らしていた。しかめっ面をしなければいけないほど空気の汚い都会はなるべく行きたくないと思った。

トイレもシャワーもない。沼で身体を洗い、質素な食事を取る暮らし。便利さと快適さはないが、まあ悪くはない。

これも何かの導きか?とふと思ったりもした。いや、ただ事実だけがあり、解釈するのは人間。そして解釈とは自分に都合よく行われる。

f:id:neoism:20190313121234j:plain
蚊帳ベッド

ここで少なくとも2週間、長くて3週間、生活しようと決めていた。

早寝早起きの健康的生活。思索に耽るであろう日々。今と2週間後では、見える世界がどう変わっているだろう。

何が起こっても結局私は私のままの気がするし、彼らの言うオカルティックなことを信じることにはならないと思う。でも、なるべく素直に、自然体で臨もう。

ベッドの下から、必死に母乳にしゃぶりつく仔犬たちの音を聴きながら、改めてそう思った。

アマゾン奥地のシャーマンのもとで修行してみた③~アヤワスカ~
2018年、アマゾンのとある田舎で、シャーマンのもとでカオスな修行をした話。

2018.10

コメント

タイトルとURLをコピーしました