前回の話はこちら。
沼で水浴びをしたあとは、お手伝いの少年と話したりした。
蚊の襲撃を避けつつ休むために蚊帳ベッドで横になるなどしているうちに、出かけていたLuisが帰ってきた。
彼はこの日イキトスで買った成分を使って何やら作りはじめた。
Camarronga
ナッツのようなもの。悪霊から身を守る作用があるという。
Thimolina(写真左)
赤い透明の良い匂いの液体。悪霊を追い払う作用があるという。感染を防ぐために用いる。
Agua de Florida(写真右)
黄色い透明の良い匂いの液体。悪霊を追い払う作用があるという。蚊除けに用いられる。
Mapacho / Chopama
良い香りのタバコ。人が持つ”シールド”を洗浄する作用があるという。
Alcanfol
白い石のようなもの。悪霊から身を守る作用があるという。頭痛や熱のための薬。
それらを2リットルサイズのペットボトルに入れて混ぜ、その薄いピンクの液体で顔や手を濡らす。これを毎朝毎晩行うそうだ。
Luisは忍術にも精通しているといい、黒魔術(black magic)や赤魔術が云々と言っていた。
ジャングルでの厳しい修行を乗り越えて体得し、多大なエネルギーを消費しつつも天候すら操るほどのパワーを手に入れたらしい。10年以上前なので今はできないとのこと。
有り得ないだろ、としか思えなかった。
ペットボトルを倒してしまい、その液体を少し地面にこぼしたことに萎えながら、セレモニーの始まりを待ち続けた。
21時過ぎだっただろうか、やってきたシャーマンのGoyoに呼ばれ、Belenとともに暗がりの中を移動した。近くにある小さな小屋の中に入る。
いよいよこれから始まるんだ、とワクワクしつづけた。
真っ暗な中、小さな椅子に座る。
Agua de Floridaだろうか、渡された液体を指示通り手に塗る。
次に、フィルターのないMapacho(煙草)を吸う。
それが済むと、小さな陶器のカップに入ったアヤワスカの液体を手渡された。
凄まじく不味いと言われるアヤワスカだが、いったいどれほど不味いのだろう。
一気に飲み干す。今まで摂取したあらゆる飲食物の中で、最も不味く感じた。
飲んでしばらくはワクワクの充足感に包まれていた。
もうすぐ何か見えてくるのだろうかという期待、あまり期待せずに待つことが重要だというLuisの言葉。その狭間を行ったり来たりしていた。
Goyoが歌い始める。不思議な感覚だ。心は冷静だった。
20分、30分と経っていただろう。
何も見えない。少しずつ、気持ちが悪くなってくる。
ふと祖父のことを思い出した。祖父はその半年近く前に他界していた。留学中だったのであまり意に介していなかった。
なぜかそのとき祖父の愛情の深さを感じて、そしてそれに応えていなかった自分を顧みて、涙を流した。
これまでの人生、物凄く悲しいこと、悲劇的なことは少なかったように思う。
自分は悲しみを持たない人間。ならば、世界の悲しみを背負う一端になればいい。
様々なアイディアが頭の中に浮かぶ。
もっと勇気出して色々チャレンジしろ。殻を破れ。そんなメッセージが強く現れた。
また、人に認めてもらいたいという気持ちが強く湧き出てきた。
ひたすら気持ち悪い。嘔吐を繰り返す。胃が空っぽでこれ以上吐けないのに、体は出そうとする。
これは修行すぎる。
予算があれば何度でも飲んでみたいと思っていたが、今撤回した。しんどすぎる。
逃れようのない苦しみに身体をよじれさせる。
「ビジョン」と呼ばれる幻覚は表れない。天井は動かない。「まばゆい光」も「幾何学模様」も見えない。
もう「ビジョン」なんてどうでもいいから早くこの苦しみから解放してくれ、と思った。
外に出て吐きながら地面に這いつくばった。見上げると、木々が恐竜に見えた。静かな自然に見守られているような感覚を味わった。
結局最後まで、「ビジョン」は見ることができなかった。
何かを見たい願望が自ら映像を作り出すが、あくまで普通の脳内映像だったように思う。
ふらつきながらベッドへ向かう。ベッドの手前まで来てまた吐き気を催すも出口が分からず、柱などに何度も突き当たり、また軽く吐いた。
全てを出してから眠りに就いた。散々だったが、案外ほぼ冷静だったような気もする。
2018.10
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