※アイキャッチ画像出典:CARACOL RADIO
コロンビアの治安、貧富の格差、労働環境はいずれも改善傾向にあるとはいえ、世界的に見れば依然としては世界トップレベルに悪い。
ジニ係数(社会における所得分配の不平等さを測る指標。0に近いほど格差が小さい)はこちらのランキングサイトによると世界10位で南米ではトップ。標本の抽出時期にバラつきがあるが、高いことに変わりはない。
2つの幸福度
しかし、そんなコロンビアに関する、興味深いデータがある。それは、幸福度に関するものだ。
幸福度には大きく2種類ある。客観的幸福度と主観的幸福度だ。
客観的幸福度とは、GDPや社会保障、健康寿命、選択の自由度、汚職度などをもとに割り出したもの。
有名なものに「世界幸福度ランキング(国連)」がある。
2015年度版の調査(対象:158ヵ国)ではコロンビアは33位、日本は46位と、意外にも奮闘している。ラテンアメリカ諸国の最上位はコスタリカの12位。
なお、上位10ヵ国のうち7ヵ国がヨーロッパ諸国であり、うち5ヵ国が北欧諸国。
日本は女性の社会進出の遅れが結構なマイナスポイントになっている。日本の国会議員の女性比率は10%未満で世界164位。ちなみに世界には女性国会議員0%の国もある。なおアフリカのルワンダは6割を超えている。
参考:列国議会同盟IPUによる2017年のデータ
主観的幸福度
コロンビアが特に高いのは、もう一つの「主観的幸福度」だ。
たとえば、アメリカの世論調査会社Gallup InternationalとWorldwide Independent Network of Market Researchが2013年より毎年12月に共同実施している「End of the Year Survey」という国際世論調査。
その中の設問の一つ。
In general, do you personally feel happy, unhappy or neither happy nor unhappy about your life?
あなたは自分自身の人生全般に関して、個人的に幸福であると感じていますか、不幸であると感じていますか、それともどちらでもありませんか
この質問項目に対して用意される回答は、以下の6つ。
・Very Happy (とても幸福)
・Happy (幸福)
・Neither happy nor unhappy (どちらでもない)
・Unhappy (不幸)
・Very Unhappy (とても不幸)
・Do not know (分からない)
全体に占めるHappy回答群(Very HappyまたはHappy)の割合からUnhappy群(UnhappyまたはVery Unhappy)の割合を差し引いた値を「純粋幸福度」と定義する。
ざっくり言うと、「幸福を感じている人の比率」-「不幸を感じている人の比率」を、各国・地域で比較して順位付けすることになる。
2015年度版の調査は、日本のほか、幸福先進国とされる北欧諸国やフィジーなどを含む68ヵ国を対象として行われた。
この調査で日本は
Happy 回答群 (Very Happy 9% + Happy 46%): 54%
Unhappy回答群 (Unhappy 2% + Very Unhappy 1%): 3%
Neither happy nor unhappy: 33%
Do not know / no response: 10%
Happy回答群-Unhappy回答群=52で、28位。
※51にならないのは小数点以下を考慮しているため
一方、コロンビアは
Happy 回答群 (Very Happy 27% + Happy 60%): 87%
Unhappy 回答群 (Unhappy 2% + Very Unhappy 0%): 2%
Neither happy nor unhappy: 10%
Do not know / no response: 1%
Happy回答群-Unhappy回答群=85で、なんと1位。
コロンビアは、同調査では例年1位や2位にランクインしている。
2017年度版は2位、2016年度版は標本の質の問題でランク外だが、数値だけ見れば2位。
なお、回答者は様々な年齢層、社会的階層、収入レベル、教育レベルから抽出された男女で、コロンビア人と日本人の対象者は、それぞれ1000人と1200人。
目立つラテンアメリカ
2015年の上位10ヵ国は以下の通り。
1位 コロンビア(85)
2位 フィジー(82)
2位 サウジアラビア(82)
4位 アゼルバイジャン(81)
5位 ベトナム(80)
6位 パナマ(79)
6位 アルゼンチン(79)
8位 メキシコ(76)
9位 エクアドル(75)
10位 アイスランド(74)
10位 中国(74)
全体平均は56で、G7諸国でこれを超えていたのはカナダ(60)のみ。
客観幸福度とはうってかわって、トップ10はヨーロッパは1ヵ国だけであり、ラテンアメリカが5ヵ国もランクインしている。ちなみに、オセアニアの小国フィジー(人口100万未満)も例年1位や2位。
以上出典:WIN/Gallup International’s Annual Global End of Year Survey
その他の調査
また、OECDによる15歳を対象とした2015年のPISA(学習到達速度調査)において、生活に「充分に満足」と答えた割合は、
1位:ドミニカ共和国、2位:メキシコ、3位:コスタリカ、4位:コロンビア
と、ラテンアメリカ諸国が上位を占めた。一方で、日本は43位と下から5番目。
※調査対象:47ヵ国・地域、2015年
出典:生徒の生活満足度、日本は47か国・地域で下から6番目…OECD調査
もちろん、こうした統計データは前提から疑ってかかるべき点はたくさんあるし、他の様々な要素も考慮する必要がある。
例えば「Neither happy nor unhappy (どちらでもない)」を回答した割合は、日本が一番多い。これは、他の国際世論調査でも顕著に表れる特徴であり、白黒ハッキリ付けたがらない国民性であることがよく分かる。
アンケートの選択項目に「どちらでもない」がなければ、また結果は大きく異なるだろう
しかし事実として、ラテンアメリカ諸国の人々の回答はポジティブなものが多い。
なぜコロンビアでは主観的幸福度が高いのか
もし本当にコロンビア人の主観的幸福度が高い(自分はハッピーだと思っている人の割合が高い)のであれば、その原因は何なのだろうか。
社会情勢の変化や文化、さらには遺伝的傾向など様々な要因が考えられるが、その中でも今回は特に、社会学における一概念に絞って説明する。
幸福感に影響を及ぼす大きな要因
ピッツバーグ大学医学部の研究チームが、SNSが精神に及ぼす影響について調査を行った。
その結果、SNSの利用頻度が高ければ高いほど、うつ病になりやすいことが判明した。
同論文は「SNS上で友人らの投稿を目にすることで、自分以外の人たちは幸せで充実した人生を送っているという歪んだ認識と、羨む気持ちが生じる」と指摘している。
SNSはその性質上、特に充実した様子ばかりが切り取られるため、一層そう思い込んでしまいやすくなる。SNS上で傍観者でいると、自分は時間を無駄にしていると感じるようになり、気分が塞がり、うつ病になりやすくなる。
フェイスブックは「人生の幸福度を下げる」 米研究結果
ミシガン大学の研究チームも、2013年に「フェイスブックの利用が若者の主観的幸福感を低下させる」との研究論文を発表している。
また最近は、フェイスブックよりもインスタグラムの方がそうした要素が強いと指摘されている。
「若者の心の健康に最悪」なSNSはインスタグラム
つまり、主観的幸福感を左右する大きな要因に「他者と比較した自分の状態」というものがあるということだ。
もちろん、他の人がどうだなどと考えることなく、あくまで自分らしく、自分にとっての幸せを追求できる揺るぎない自己肯定感を持った人たちもいる。しかし、大抵の人はこのように他者の幸福な様子によって、自己の充足感は揺さぶられ、不満を感じてしまいやすい。
相対的剥奪感
社会学に「相対的剥奪」という概念がある。
人が抱く不満は、その人の置かれる境遇の絶対的な劣悪さによるのではなく、主観的な期待水準と現実的な達成水準との格差による、という考え方だ。
先述のSNSの話然り、人は自らの行動や態度を決定する際に、その指針となる基準を必要とし、それを集団や個人に求める。
よく、フィリピンの貧困地域に行ってみたら笑顔の子供が多くて意外だった、などという話を耳にする。
しかし、恐らく彼らは自分たちの住むその地域以外のことをほぼ知らない。
だから、比較対象がなく、ゆえに相対的剥奪感は少なく、彼らの基準で幸福を感じていたりするのだろう。
もし彼らが一度、より快適で裕福な生活を経験したならば、また同じようにその貧困地域で生活することに対して不満を抱きやすくなるはずだ。
エストラト制度が関係している?
先に述べた通り、コロンビアは世界でも有数の格差社会であり、労働環境も劣悪な傾向にある。
にも関わらず、国民の主観的幸福度が高いというデータが得られる一因として、コロンビア独自の社会制度である「エストラト制度」も関係しているとも考えられる。
エストラト制度とは、簡単に言うと格差是正を目的とする社会経済階層制度だ。エリアや家の種類などによって水道やガスなどの公共料金の負担が大きく異なる。(1から6までの6段階に分けられる)
貧しい人は貧しい人たちで固まって生活し、お金持ちはお金持ちたちで固まって生活する。
たとえば首都ボゴタでは、南には貧しい人が多く、北には裕福な人が多いが、南の人は一生北を知らず、北の人は一生南を知らずに人生を終えるとも言われている。(近年は開発などにより少しずつ変化しているが)
すると貧困地域の人々は、自分よりもっと裕福な生活を送っている人が同じ街にいても、分断が大きければ自分との比較対象として捉えにくく、ゆえに相対的剥奪感を抱く機会が減る。
つまり、実情は貧しくても、心は貧しくなりにくい。
実際にデータを見てみると、コロンビアにおいて経済格差が調査回答に及ぼしている影響は非常に小さい。
幸福感は、人生で誰もが追い求めるものであり、幅広く研究されている。
気が向いたら別記事にて、詳しく深掘っていきます。
2018.06
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