レーザーポインターを愛好していたときの話

雑記

高校2年の4月、修学旅行で韓国に行った。帰ってきてしばらく経ったある日、同級生の中でも変態として知られていたOという男が、ニヤニヤしながら私にそれを見せてきた。先端から照射される赤い光は、数十メートル先の壁にぶつかって揺れている。日本でも流通するごく一般的なものであったが、私の目は、その新しい玩具に釘付けになった。授業で使われているのは見たことがあるが、手に取ったことはなかった。それが私とレーザーポインターとの出逢いだった。

Oからそれを借りた数日後の放課後の夜、私は友人のTとともに、当時通っていた塾のビルの階段の柵を越えて屋上によじ登った。そこは私のお気に入りの場所だった。6階建てのそのビルは、地方都市のターミナル駅周辺においては決して低いわけでもなく、随分と高いところにいるように感じた。

外に向けてデカデカと張り出された屋上看板の下の隙間から少し顔を出し、道行く人々の足元に赤い光を飛ばす。ある者は気付かず、ある者は立ち止まり、ある者は急ぎ足になり、またある者は騒ぎ立てる。まるで蟻の行列にちょっかいを出しているような感覚。自分の指に少し力を入れるだけで、数十メートル以上先の人間の行動に干渉することができる。なぜだかそれが面白く、歩行者たちの足元を照射しては、その反応を見てゲラゲラ笑うなどしていた。

そこから大きな通りを挟んで建つとあるビルの2階には別の塾が入っていて、私がそうやって遊んでいた時間帯にはいつも、集団授業の様子を眺めることができた。カーテンはいつも全開で、教室の煌々とした明かりがその脇の歩道をよく照らしていた。ある夜、私はその教室にいるとある男子生徒をターゲットに選び、彼の開かれたノートに不定期的に赤い光を刺した。突然のことに、慌てふためく様子が見える。もちろん声は聞こえないが、周囲の生徒たちも彼の反応に対して何やら反応している。それから少し時間が経ち、教室が平穏を取り戻した頃、また彼のノートに照射を行っては反応を見て楽しんだ。

そうやって何度か同じことを繰り返しているうちに、彼は光の出どころに気付いたようで、窓の外の斜め上方、私のいる方向に人差し指を向けた。他の生徒たちや講師も、彼の指す方向、つまりこちらを見上げている。私は屋外看板の下から出した頭を引っ込めてしゃがみ、スリルを噛み締めた。そんなことを何日か続けた結果、その教室のカーテンは完全に閉められた。(レーザーポインターの)小さな光を彼らにもたらした結果、彼らは大きな(陽の)光を失い、道行く人々も(教室から路上に煌々と垂れる)光を失ったというわけだ。

後日、その話を知人に伝えたところ、ある日の教室には彼もいたそうで、ターゲットになった生徒は「俺、命狙われてるかも…」などと怯えていたらしい。当人以外は誰もその光に気付かなかったそうで、彼の幻覚・妄想ということで片付けられたそうだ。それから10年経った今でも、地元に帰るとやはり、そのカーテンは相変わらず閉まったままである。

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