累積犯罪被害件数偏差値は同世代と比べて70超えてそうな私ですが、今回もそんな話。
2017年11月、大学の連休を利用して、友人Kと2人で中国の上海を旅行したときのこと。
初日の宿も取らずに急遽飛んだ我々は、様々なトラブルに見舞われながらも、無計画すぎる旅を楽しんでいた。
タイトルの通りだが、半日に2度も詐欺に引っかかるなんて間抜けすぎて、笑い話とはいえ話す場所を選ぶ代物である。
が、ここではあえて、注意喚起も兼ねて、その体験の一部始終を記す。
第一の詐欺~写真とお茶~
上海滞在3日目の昼、有名観光地である豫園付近の宿をチェックアウトした我々は、食事スポットを求めて歩いていた。
すると、20代と思しき小柄な中国人女性がKに近付き、写真を撮ってほしいと英語で話しかけてきた。
Kが応じると、30代と思しき男性も遅れてやってきた。
彼ら2人の収まる写真を撮ってあげたあと、我々も同様に撮ってもらった。
それから雑談をしていると、これからどこに行くのかと尋ねられので、飯を食べるところを探していると伝えると、「私たちはこれからお茶の体験会に行くけど、一緒に来る?」と誘われた。
一瞬迷ったが、面白そうだと思って行くことにした。
近くにあるという店に向かう道中、女性と2人で話した。
私たちから後方に少し距離を置いて、Kと男性が2人で話していた。
2人は従兄弟同士で、彼女は大学生で保育士を目指しているらしい。
また、男性は工場関係のマネジメントなどしているらしく仕事で上海に来ているという。
数分後にお店に着き、奥の個室に案内され、昔からの作法や歴史を教えてもらいながら様々なお茶を飲みつつお喋りした。
彼女たちは、こちらから話題を振らずとも、間髪入れずに様々な質問などをしてくる。
また、お茶に関する知識をやたら熱心に解説してくれた。
「どんだけお茶が好きなんやこの人たちは」
「こんなところに来るまでもなく自宅で日常的に嗜んでいるレベルだろう」
そう思わざるを得なかった。
女性は、店に入る前も中にいるときも、私がどこに泊まっていたのかを知りたがった。
この近くと伝えたが、直後に携帯でマップアプリを見せてきたので探して「ここ」と伝えた。
お茶は美味しかったが、1人220元もしたのは想定外だった。(当時のレートで3000円強)
事前に見せられたメニューには48元と書かれていたので、1人48元かと思いきや、4人が選んだ4種類のお茶の分をそれぞれ支払うというカタチだったようだ。
それでも220元にはならないのだが、「消費税かチップでも含まれているのかな」「上海だから物価高いのか」程度の認識であり、そのときはあまり気にならなかった。
とはいえ、最初に、ちゃんと料金を確認しておくべきだったな、とそのときは反省した。
これが上海で有名な詐欺手法であったことに気付いたのは、この日の夜に、後述するとある詐欺に引っかかったあとのことであった。
もちろん、全く怪しまなかったわけではなかった。
最初に誘われたときは「変なところに連れ込まれるかもしれない」と考えた。
しかし案外そうでもなかったので次は「お茶や器に睡眠薬などが塗られたり混ぜられたりしているかもしれない」と考えた。
そうでないことが分かると、次は「ボッタくられるのでは」と考えた。
サービス内容と照らし合わせれば、220元という価格は冷静に考えると高いのだが、店の人間ではない彼らの熱心な解説などのお陰か、そこまで高いとは感じられなかった。
なお終盤、店の人にお茶を購入するか尋ねられ、要らないと言うと、大人しく引き下がってくれた。
恐らく、相当高かっただろう。
それから食事に誘われて近くの商業施設の普通のレストランでご飯を食べつつお喋りしたあと、親切にもレンタサイクルを貸してくれた彼らと解散し、ハッピーな気持ちで人民広場に向かった。
第二の詐欺~女とワイン~
今にも雨の降り出しそうな天気だった。
上海博物館や人民広場を歩いたのち、新世界の通りをブラブラした。
上海在住暦の長いとある日本人男性Mさんと夜に会う約束をしていたため、その1時間ほど前になったとき、地下鉄の駅に向かいはじめた。
突然、見た目30前後の中国人女性2人組が、中国語で話しかけてきた。
中国語は話せないと伝えると、流暢な英語を発してきた。
雑談の中で日本好き好きアピールなどをされたのち、
「今からお茶でもしようと思うんだけど来ない?」
と誘われて、お茶をすることになった。
冷静に見ると油断しすぎなのだが、先述のお茶の2人の登場により、中国人ってフレンドリーな人が多いんだなという印象が強まっていたことで、警戒心が薄れていた。
私は女Aと、Kは女Bと、それぞれ2人で話しながら、近くの建物に向かった。
建物に入り、エレベーターで6階へ。
店内は結構空いていたが、奥のテーブルに案内された。
私は通路側の席に座り、右隣は女A、正面は女B、女Bの隣にKが座った。
座る際は、女Bは「私は奥は好きじゃない」と言ってKに奥に座るよう促した。
以下は、店の隅の図。
言うまでもなく、これがこの日二度目の詐欺であった。
私は25元(当時400円弱)のビールを注文。
メニューを確認して「高くないな」と安心したことを覚えている。
そこから我々は楽しくお喋りした。
彼女らもまた、お茶の件の人たち同様にお喋りで、私たちが話題を振らなくとも次から次へと話しかけてきた。
日本のカルチャーに関する話題が多かったような気がする。
そして、我々をやたらに持ち上げてきた。
女Bは後半、Kの手をニコニコしながらずっと握っていた。
女Aは、女Bには長らく恋人がいないと説明していた。
匂わせどころではない。ダイレクトすぎる。
楽しくお喋りしながらも「最初に中国語で何と話しかけてきたのだろう」という点は少し引っかかっていた。
だが、本当に日本や日本人が好きで、私たちを見て気に入ったのかもしれないな、と思うようになっていった。
頼んでもないのにワインが次々と運ばれてきても、ビール小瓶1つで25元なのだから、大した値段ではないだろうと看過していた。酔いが回っていたこともあって気にしなくなっていた。
女たちは何度も「カンペイ(中国語で乾杯の意)」とか「Cheers」と言ってきた。
酒にかなり弱いKは、嫌がりながらもそこそこ飲んでいた。
あとで察することになるのだが、これは「私たち2人が酒を飲んだという事実を作り上げる」ための作戦だったのだ。
Mさんと会う時間が迫っていたため、そろそろ行かなければと伝え、店員を呼んだ。
若い男性店員が運んできた領収書に書かれていた額は、1718元。
当時、日本円にして26000円くらい。
割り勘でも一人6000円強。
確かに、小さめのワイングラスを3杯は飲んだし、ビールの小瓶やフルーツの盛り合わせも食べた。
しかし、いくら上海とはいえ、この値段は明らかにおかしいと、酔っ払いながらも瞬時に冷静になった。
女どもは「Thank you」などと言って、「会計は当然のように男性陣持ち」というムードを急に醸し出してくる始末。
この瞬間、店も女たちもグルで、我々はハメられたのだと確信した。
それにしても最後の詰め甘くないか。態度が急変しすぎだろう。
「いくら持っている?」と女Aに聞くと「私は女Bにお金を委ねている」的なことを言うので、女Bに尋ねると「ほとんど持っていない」とホザく。
普通ならば「じゃあお前、なんでそんなにワイン注文するんだよ」ということになる。
領収書を見ると、ワイングラス1杯が158元になっていた。ビールの6倍以上だ。
日本円にして2500円程度。凄まじいボッタクリ価格である。
店員に「こんなに高いとは思っていなかった」と伝えると「メニューに書いてあるだろ」と言ってくる。ワインの載ったページは見ていない。
「俺は頼んでいない」と言うと「だがあなたが飲んだのは事実だ、あなたの赤い顔がそれを証明している」などとホザいてくる。
女が喚き出す。店員が「黙れ」と怒鳴る。
一見リアルだが、これは演出だとすぐに悟った。
これでは埒があかない。
しかし、払ってやるのもバカバカしい。
「カネがないということにしよう」と判断した。
私は、日本語が通じない彼女らの前で堂々とKに「それぞれ200元(約3200円)ずつくらいしかないと言い張ろう」と伝えた。
飲み食いの量との釣り合いを考慮しつつ、手持ちがあまりに少なすぎると怪しまれると思った結果、200元という額に脳内で落ち着いた。
いくらなら出せる、と店員は迫ってくる。
「我々は学生で、明日日本に帰るからもうお金がない。200元くらいしかない」と言い張った。
オーナーと名乗るオバサンもやってきて、「払えないなら警察に電話する」と脅迫しながら、携帯画面に何やら打ち込み始めた。
だが、果たしてボッタクリ店が警察に電話するだろうか。
「コイツはただ俺たちをビビらせたいだけだ」
明らかに怪しいと感じた私は、オーナーに「携帯画面を見せろ」と言った。
するとそいつは、「プライバシーだ。見せる理由はない」などと喚いたが、何度も言い続けると見せてくれた。
110番宛てに3度着信していた。(日本と同じで中国も警察は110番)
普通110番にかけて繋がらないということは有り得ない。つまりワン切りしているだけだ。
脅しのためだけにそうしているのか、呼ぶか呼ばないか迷っているかということだろう。
とはいえ、もし本当に彼女が警察を呼んだとしても、言った言わないの泥沼合戦になることは目に見えている。こういうときは、日本なら弁護士を呼ぶのがいいのだろうか。
しかし私はMさんと会うためにも、早く済ませたかった。
Kは「もう払わね?」と諦めムードだ。
だが、負けてはいられない。
その後も、カネがないから払えないと訴えつづけた。
「日本円やクレジットカードは」と尋ねられたが、持っていないと主張した。(もちろん持っていたが)
「なら、今出せるだけで勘弁してやる」
「外国人だから許すが、今回だけだ。次は許さない」
店員は強い口調でそう言ってきた。
女Aは私に対して「You are not a man, you are a girl (あんたは男じゃなくて女の子よ)」などと捨て台詞を吐く始末。女性なのにさりげなく女性差別してくるなんて。
店側とグルであることを自ら告白しているようなものだ。詰めが甘すぎる。
「財布をチェックされるか?」と思ったがそれは杞憂に終わり、それぞれ200元を出して、その場から離れることができた。
「帰りのバス代などは大丈夫か?」と店員は言ってきたが、面倒なのでそのまま支払った。
急に気遣いを見せてくるとかツンデレか。
女Bも、いくらか出していた。そういう演出だろう。
支払いを済ませて席を離れ、エレベーターの前まで来たあたりでKに「トイレ行こう」と伝えて店に引き返すと、数十秒程度しか経っていないのに先の店員も女たちも既にいなかった。
別の部屋で、我々から得た400元を山分けしていたに違いない。
詐欺の手口
女たちが会話の中でひたすら喋り散らかすのは、沈黙で気まずくさせず、カモを楽しませて支払う意欲を高めさせるためー。
店に向かうまでの間、1対1の状況を作り出したのは、カモ同士で相談できなくするためー。
奥のテーブルに案内したのは、そして奥の席にKを通そうとしたのは、逃げにくいようにするためー。
やたらと持ち上げてきたりKの手を握るなど”女”として接してきたりしたのは、今後の展開を期待したカモに女の機嫌を損ねたくない、カッコつけたいと思わせ、男気で払わせる可能性を高めるためー。
一度詐欺と分かれば、1つ1つの出来事に隠された意味が途端に見えてきた。
しかし、彼らは値段設定を誤った。
仮に会計が半分の750元程度であれば、1人180元(3000円)くらいだから、特に疑うことなく払ったであろう。
メニューを複数用意しているのだろうか。
奥のテーブルはぼったくり専用なのだろうか。
疑問は尽きない。
表面上は笑顔をたたえていても、裏で何を考えているかなんて分からないものだ。
詐欺というものは全てそうであると思うが、都合の良い馬鹿なカモだと心の中で嘲笑いながら我々に接していたのだろうから、薄ら寒いことこの上ない。
ぼったくりや詐欺なんてものは、サイコパスほど儲かりそうな商売だとつくづく思う。良心のある人にはなかなかできたものではない。
必要に駆られて否応なしに続けるうちに感覚がマヒしてくるケースも多々あるのだろうけれど。
その後会った在住暦の長いMさん曰く、よくある手口とのこと。
こうなってくると、あのお茶の件も怪しく感じられてくるのは自然の理。
Mさんと別れたあと、Kと夜道を歩きながら「絶対あれも詐欺やろ」「いや~どうかな」なんてやり取りを交わし、ホテルに着いたあとに、恐る恐る調べてみる。
KがVPN接続したGoogleに「上海 詐欺」と入力すると、予測候補に「お茶」が出てきて確信。
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何万円も取られた例もたくさんあった。
振り返ってみると、合点がいく。
(女二人組の手口と同じく)2人を引き離しながら店に連れていくのは、相談させないためー。
沈黙を作らぬように積極的に話題を提供してくるのは、疑問を抱く隙を与えないため。そして、カモを楽しい気分にさせることで、そして逃げにくくするためー。
茶に関する熱心な解説は、カモの満足度を高めるためー。
宿泊したホテルの場所を知りたがったのは、どのくらいのグレードのホテルに泊まったのかを知ることによって、請求金額を絶妙なラインに持ってくるためー。
なぜなら、カモにとって明らかに高すぎる金額を請求すれば、詐欺っぽさが表出してしまうし、そもそも支払い能力がない可能性が高いからー
これらは私の推測だが、大方当たっているのではと思う。
ただ、お茶の件に関して解せなかったのは、その後、普通の場所に普通に飯に行ったり、レンタサイクルを貸してくれたり、連絡先を交換したがったりした点だ。
疑われにくくするためなのか、罪滅ぼしのつもりなのか、その後も何らかの手段でカモにするためなのか。
そこのところはよく分からずじまいだ。
以上、上海で半日(6時間以内)に2回詐欺に遭った話でした。
正直、美味しい体験だった。
言うまでもなく観光客は狙われるので、特に海外に行くときは、事前にメジャーな詐欺情報を調べて頭に入れておいた方がいい。(大学1年の頃にタイを一人旅したときは、事前リサーチのお陰で何度も難を免れた)
P.S そして私はその1年ちょっとあとに、また別の詐欺被害に遭うのであった。いい加減学びました。
2017.10
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